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最高裁判所第一小法廷 昭和39年(あ)1605号 判決 1965年2月25日

主文

本件上告を棄却する。

理由

<前略>

被告人瀬渡秀治の弁護人寺島祐一の上告趣意第一点について、

所論は、要するに、原判決は被告人清水正三及び同瀬渡秀治において共謀の上、右両名の職務に関して現金一五〇万円の賄賂を収受したものと認定し、主文第四項において、被告人瀬渡より金一一五万円を、被告人清水より金三五万円(同被告人の単独収賂にかかる二〇〇万円と合計して金二三五万円)をそれぞれ追徴する旨宣告した。しかるに原判文には、右追徴額算定の根拠につき何らの理由も示されず証拠説明もなされていないから、原判決には理由不備、審理不尽の違法があり、原判決が右両被告人に対し平等に追徴を科していないところからすれば、前記収賄額一五〇万円のうち、三五万円を被告人清水が費消し、残余の一一五万円を被告人瀬渡が費消したものと認定し、各費消額に基づいて追徴額を算定したものと解するの外はないが、右各費消額の認定には重大な誤認があり、被告人清水の費消額は九一万二千円であり、被告人瀬渡は残余の五八万八千円を費消したにすぎないと前提して、原判決は、数人共同して収賄した場合、共犯者各自の分配額の如何にかかわらず平等に分割して追徴すべきものとする大審院判例に違反するは固より各自分配額に応じて追徴すべきものとする大審院判例にも違反するというにある。

しかし原判決は、前記収賄額一五〇万円のうち三五万円を被告人清水が費消し、残余の一一五万円を被告人瀬渡が費消したものと認むべき根拠として、被告人清水の検察官に対する昭和三四年二月一九日附、同月二〇日附、同月二六日附各供述調書並びに被告人瀬渡の検察官に対する同年同月二五日附供述調書等を挙示していること原判文上明白であるから、原判決には所論の如き理由不備ないし審理不尽の違法はなく、これらの証拠によれば原審の右各費消額の認定に誤りがあるとは認められない。されば原判決は、所論引用の大審院判例のうち、数人共同して賄賂を収受した場合にその費消した賄賂を追徴するには各自の分配額に応じてこれを行うべきものとする昭和九年七月一六日及び同年九月一四日各宣告の判例に従つたものであつて、これに違反したものでないことは明らかである。そして所論引用の大審院判例のうち、右の場合、収賄の共犯者の分配額の如何にかかわらずこれを平等に分割して追徴すべきものとする見解を示した各判例は、前記昭和九年七月一六日宣告の判例が明示する如く、大正一一年四月二二日宣告の大審院連合部判決の趣旨に従い既に変更されたものであるから、かかる変更された大審院判例は、刑訴法四〇五条三号の判例に当らないものと解すべきである(昭和二七年(し)第一六号、同年八月三〇日第二小法廷決定、集六巻八号一〇六三頁参照)。従つて右平等追徴の見解に立つ各判例を引用する限り、所論判例違反の主張は不適法である。更に所論引用の判例のうち昭和一二年一〇月二〇日宣告の大審院判例は、右判例変更以後であるにもかかわらず、再び平等追徴の見解を採つた観があるけれども、その判例は、被告人三名が料亭における飲食遊興費を賄賂として収受し各自の費消額が平等であると認められた事案に関して右三名に平等追徴を科したものであるから、同判例は、大審院の見解を三転せしめて平等追徴説を採つたものではなく、むしろ各自の費消額に応じて追徴すべきものとする見解に従つたものというべく、従つて原判決は右大審院判例にも違反したものでないこと明らかである。なお所論のうちには原判決は最高裁判所判例に違反する旨主張する点があるけれども、如何なる最高裁判所の判例に違反するか具体的に明示していないから、この点に関する判例違反の主張は不適法である。<以下略>

(裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 長部謹吾 岩田誠)

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